荒材・ベニヤ板とダンボールを使った

舞台・学園祭の「道具」と「つくりもの」


「道具」と「つくりもの」をつくる④


◎つくりものづくり
このページでは,「道具」と「つくりもの」に厳密な境界線は設けていません。ただ作業内容に関して言うなら,「道具」は大工仕事が中心で,材料やつくるものに規格があり,作業の成り行きにある程度見通しがつくもの,「つくりもの」は多様な技術を必要とし,素材もさまざま,作業工程が複雑で見通しがつきにくいもの,とは言えるかも知れません。
この章ではつくりものづくりに関して具体的に紹介したいと思います。なるべく特徴的なものをと思いますが,関係者のご了解の取れたもの,ということになりますので,可能な範囲で説明していきたいと思います。

○つくりものづくりの心構え
つくりものづくりは,いわばプチ商品開発のようなものです。「何をつくるか=表現したいことは何か」についてよく考えなければならないし,オリジナリティのあるものになればなるほど,技術的には未開の地に足を踏み入れなければならないかも知れません。「思いつき」を具現化していくエネルギーや,ものづくりの「勘」も必要です。
まずは,それまで学んだことからヒントがないか考えること。応用することで,ある程度妥協できるなら,それも選択肢のひとつ。全く新しいことをするときは,プランに沿ってどんな素材と技術を使うかリサーチします。ふさわしいかどうかは実際にやってみるしかありませんから,可能性のある素材でテストをします。データを取ってプランを改善。プランが決定したら見積りを出して予算を検討,材料を購入,製作,ということになります。そんな一連の流れは製作期間中何度か訪れるので,かなりの辛抱強さが必要になります。

球体オブジェをつくる



球体は学園祭などで中高生が作りたがる人気のフォルムです。しかし,ある程度フォルムがきちんとして強度もあるような球体を作るにはかなりの計画性と技術力が必要で,なかなか実現することは難しいのが現状です。
2010年,行方市立玉造小学校開校100周年記念公演「ほしのともだち」<作/渡辺キョウスケ 演出/河原将子(演劇事務所’99) >のために球体のオブジェ(以下「球体カプセル」)を製作しました。その時の写真が残っていましたので,製作過程をご紹介します。あくまでも一つのやり方に過ぎませんし,予算など条件次第では全く異なった製作方法もあると思います。球体だけでなく,曲面のあるオブジェ作りなどの参考にでもなれば幸いです。

◯舞台装置としての条件
直径1メートルの球体で,フタが開閉し人の出入りが可能であること。

◯球体カプセル製作概要
工程が複雑なので,まず概要をざっと見ていただいてから個々について説明していきます。
フタがあることが前提なので,フタ込みで骨組みを作り,ほぼ完成後にフタを切り離し,長蝶番で接合,という流れです。

①骨組みを作る。
②骨組みを組み立てる。
③組み立て完了。
④骨組みを球面に沿って削り取る。
⑤段ボールを貼合わせた固まり(以下「段ボールブロック」)をはめ込んで接着する。
⑥段ボールブロックの余分を削り取る。
⑦モデリングペーストでモデリング。曲面を修正。
⑧フタ面を切り離す。
⑨長蝶番でフタを接合しストッパーを取付け。
⑩フタ全開,ストッパー使用状況。
⑪着色後。
⑫着色後フタを開いたところ。

◯基本的な作り方〜設計プランについて
木材で骨組みし,そこでできた格子状の窓に段ボールブロックをはめ込んで接着。それを削って球体にします。
骨組みは「相欠き継ぎ」(互いの材料から半分ずつの厚みを欠き取って組み合わせる方法)で,ビスなどで補強しながら組み立てることにしました。設計プランの注意点は,欠き継ぎの溝の形をなるべくシンプルに,3次曲面のような複雑な形状にならないようにすること。ジグソー程度の工具で溝を切り出すことができるようにするためです。

◯球体カプセルの図面
製作当時は「自分がわかれば良い」程度のメモを描き,製作を始めましたが,今回このページにアップするにあたり,改めて図面に描き起こしました。
説明のため,この球体の,スイカで言うとヘタを上に置いた時の縞模様方向の骨組みを「縦パーツ」,水平方向に輪切りした方向の骨組みを「横パーツ」とします。
 縦パーツ.pdf 横パーツ.pdf
 

①骨組みを作る。
・部品はすべてコンパネを2枚貼り合わせて作ります。材料を無駄なく使い切れるように,木取りは工夫して。
①-1 使用する材料等
コンパネ(12mm厚),コンパス用の薄ベニヤ(2.4mm)など
①-2 けがき
縦パーツは同じ円をたくさん描きます。特に最初に作る縦パーツは型紙として使用していくので,精度に気をつけます。
①-3 パーツの切り出し
ベニヤの下に高さを揃えた段ボールの箱を台として敷いて,ジグソーで切り抜いていきます。
①-4 バリ取り
NTドレッサーなどでバリを取っておきます。大事なひと手間です。
①−5 パーツの接着(1)
接着する際は,下敷き用のコンパネに実物大の図を描いておき,そこに切り出したパーツをきちんとのせて行うと円の歪みを最低限に押さえることができます。ボンドは片面塗りで十分かと思います。下敷きにボンドがはみ出しそうな箇所には,マスキングテープなどで養生しておくと良いでしょう。
①-6 パーツの接着(2)
接着時はクランプ等で押さえたりせずに,ビス(スリムビス25mm)を打って固定していきます。ビスの先端の貫通して裏面に出てしまう分はグラインダーで削り取るか,ボンドが乾いてからビス自体を抜いておきます。
①-7 型紙を使ったけがき
正確に作った最初のパーツを型紙として残りのパーツを作っていきます。
①-8 縦・横各パーツ完成
球体カプセルひとつ分の木材パーツです。特に縦パーツは材料のロスが多く,準備した材料の半分以上はゴミとなってしまいます。くれぐれも木取りを工夫してほしいところです。

②骨組みを組み立てる。
②-1 縦パーツを基準に骨組みを組む。(1)
縦パーツ図面の(ⅰ)パーツを基準として横パーツを組んでいきます。
②-2 縦パーツを基準に骨組みを組む。(2)
次に(ⅱ)パーツを十字向きにに欠き継ぎしますが,入らないので一ヶ所を仮に切断して組立を優先します。切断した箇所はほかの縦パーツを組んでから薄ベニヤなどを添え木しビス止めして繋げておきます。

③組み立て完了。
③-1 組み立て完了。(写真は完了していませんがご了承を…。)
縦パーツ図面の(ⅲ)および(ⅳ)半円形のパーツは天地部分で縦パーツが集中するので,必要があれば適当に先端を切断して組み立てます(③-5)。縦パーツ(ⅳ)蝶番用パーツは長蝶番を取り付けて穴位置を確定したあと長蝶番を取り外します(③-4)。後程フタが開き内側が見えることになるので,ビスなどが飛び出ないように気をつけます。フタは後で切り離すので,鋸の刃が入るように,2枚ずつ組むフタ内外の縦パーツの間に薄ベニヤ(2.4mm)の切れ端を何ヶ所ずつか挟んでおきます。
縦パーツと横パーツは交差箇所を大きめのビスで固定します(③−2)。コンパネが裂けてしまわないように打つ方向には注意します。

④骨組みを球面に沿って削り取る。
④-1,④-2
横パーツの球体から出っ張った角の稜線部分を,目の粗いグラインダーやベルトサンダーで削り取ります。横パーツの削らない方の稜線は球面の接線になりますから,誤って削って球形がいびつにならないように注意します。この作業は結構力技です。粉塵も激しいので,作業する場所,服装,養生など十分に準備をして安全に作業したいところです。

⑤段ボールブロックをはめ込んで接着する。
⑤-1 段ボールブロックを作る。
下準備として段ボールを木工用ボンドで貼り合わせた「段ボールブロック」を作ります。この作業は地味ですが手間のかかる作業です。製作当時はボランティアスタッフの皆さんに手伝っていただきました。しっかりボンドが乾いてから角度に気をつけて切断します。
⑤-2 段ボールブロックをはめ込んで接着する。
球体の骨組みの間にはめ込みます。削り取ってしまう部分はなるべく切断してスリムにし,接着します。
⑤-3 段ボールブロック接着完了

⑥段ボールブロックの余分を削り取る。
⑥-1 
前述④と同様に段ボールブロックを削り取ります。こちらの作業も激しいので,安全な作業を心がけます。

⑦モデリングペーストでパテ埋め。曲面を修正。
⑦-1
段ボールブロックの表面の凹凸をモデリングペーストで埋めます。モデリングペーストは厚く盛るものではなく,小さな凹凸を埋めたり,表面にわずかな凹凸をつけるための画材です。厚く盛るとなかなか乾かない,乾いてもひび割れ,収縮などがあります。フォルムは前述⑥でほぼ出来上がっている必要があります。モデペが乾いたら凹凸をベルトサンダーなどでならしておきます。

⑧フタ面を切り離す。
⑧-1,⑧-2,⑧-3
ほぼ形が出来上がり,骨組みが動いてしまう危険が無くなった段階でフタ面を切り離します。

⑨長蝶番を取り付けストッパーを取付け。
⑨-1
フタを切り離したら縦パーツの余分な部分を削り取ります。前述②-6で下穴を開けておいた長蝶番を取り付けます。
ストッパーの図面は記録が残っていなかったので省略しますが,開いたフタを止めるための部品です。フタを開けた時のバランスを見ながら現物合わせで作りました。中央の横パーツを挟むようにコンパネ(計4枚)を貼り合わせて取り付けました。

⑩フタ全開,ストッパー使用状況。
⑩-1,⑩−2
本来のプランでは全面を段ボールブロック+モデペで覆う予定でしたが,形の作業はここまでとしました。
前述⑤の段ボールブロックの裏側,長蝶番の取り付け具合の様子です。

⑪着色後。⑫着色後フタを開いたところ。
⑪-1,⑫-1
木部の接合部分などに必要があればモデペで補填します。ボタンカラーで着色,汚しを付けて作業終了です。

◯その他
この球体カプセルは,素材や大きさなどからそれなりの重量になります。ふたを開けた時のバランスを考えると,しっかりと固定されている必要がありますので,ドーナツ型の台(base.pdf)を別に作って止めるのがコンパクトです。
製作工程については,以上になります。説明が足りない点については,今後可能な範囲で修正したいと思います。