趣味の木彫入門 ④

小さな単位でトレーニング(2)─丸彫りの粗取りから部分の造作まで─

この演習の工程は次の通りです。題材は角柱から丸い形を彫り出すという、極めてシンプルなものですが、文字通りトレーニングとしてチャレンジしていただきたいと思います。なお、形が単純なので粗取りから部分の造作まではひとつの項目としてあります。


工程  作業の実際 
材料へのトレース(準備) 下絵を材料にトレースします。鋸を入れる部分をけがいておきます。
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 粗取り  鋸を入れて前後左右からの輪郭面を彫ります。
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粗彫り〜部分の造作
全体像が出るまで彫り、細部の形を作ります。

丸彫りの場合、刀だけで作業するのはとても不自由です。いずれは6分(18mm)程度の鑿が必要になりますし、刃物以外にも材料を押さえるための万力などがあると便利な場合もあり、どうしても設備が大がかりになります。この演習では、限られた道具を使い可能な範囲で丸彫りのトレーニングをします。

使用する材料と寸法:チーク材、200mm(高さ)×60mm(幅)×55mm(奥行き) ☆注意 寸法は最小の場合で、下辺より60mmは台座部分。
最低限必要な道具:刀(切り出し右・左、平刀、丸刀 サイズはすべて3分(9mm))で計4本(他に刃の幅の狭い彫刻刀などを準備)、替え刃式鋸(目の細かいもの)
あると便利な道具:鑿(平鑿、丸鑿 サイズは各6分(18mm))と木槌(頭の重さ300~400g程度)、小さいバール

(1)下絵からトレースまで
下図のように原画から下絵を起こし材料にトレースします。

【下絵からトレースまで】

このような形を作ります。

下絵にすると上のようになります。左から、左側面図、正面図、右側面図です。背面は正面と同じです。

材料へトレースします。正面と背面、両側面どうしが正確に重なるように注意します。
中心線も忘れずにけがいておきます。

鋸を入れるための線をけがきます。間隔は5mm程度です。面ごとに高さを多少ずらしておくと、次の作業がしやすいかも知れません。

(2)粗取り
粗取りの工程は、鋸を入れ大きな面を階段状に取る段階と、その面を刀などでなだらかにし、下絵の輪郭を出す段階とからなります。
レリーフの時と同様に下絵の寸法通りに作業する工程です。

【粗取り1/鋸を入れる】

けがいた線に沿って鋸を入れます。垂直に切っていけるよう、刃を真上から見て正確に切っていきます。いわゆる「鋸入れ」とは内容が異なります。

一面に対して赤い線のように鋸を入れていきます。けがいた輪郭線にくい込まないようにします。これを4面とも繰り返します。

【粗取り2/下絵の輪郭を出す】

鋸を入れる工程がすべて終わったら、小さいバールなどで切断面をこじり、不要な部分を折って取っていきます。

切り込みの深い部分をつなげるように、刀などでさらい、下絵の輪郭を出していきます。中心線を忘れずに引いておきます(赤線部分)

(3)粗彫り~部分の造作
粗彫りから部分の造作までをひとつの工程として説明するのはかなり乱暴なことです。具象的な表現であれば当然、細かい工程を経ることになりますが、この演習ではシンプルな内容で形を彫る際のポイントを理解してほしいと思います。
さしあたって、粗取りで残った斜め部分の余分な材料を取っていく作業となりますが、彫る材料の中に最終的な形が埋まっていて、それを彫りおこすイメージで彫ると良いと思います。粗取りでつくった大きな面のなかで、最終的な形が接するのは下絵の工程でけがいた中心線部分だけですので、線を消さないようにスムーズに形がつながるように彫ってください。

レリーフの考え方と同様に丸彫りの場合も、粗彫り以降の工程は寸法が曖昧になりがちです。かたちを上から見て彫った高さを確認しながら進めていきます。材料の最初の四角いフォルムに引きずられないように注意します。

【粗取り~部分の造作】

ひとまず角を取り丸くしましたが、まだ角材の四角いフォルムが強く残っています。

全体を上からよく見て、丸い感じを出していきます。正面側と背面側の丸みが違うので注意します。

(4)まとめ
以上で「小さな単位でトレーニング(2)」は終了です。具象的な形ではないので、丸彫りの即戦力にはならないかも知れませんが、具体的な細部がない分、思い切って大きな形の流れをつかむことができるのではないでしょうか。丸彫りの大きなポイントは形の高いところ(形の稜線となる部分、この演習では各側面の中心線)から次の高いところへ面がどのようにつながっていくかをよく見て彫っていくということです。

【粗取りから粗彫りまで・人体頭像の場合】

具象的な制作の実際を考えると形のとらえ方はもっと複雑です。演習では稜線から稜線までは緩やかな曲面でつながっていきましたが、具象彫刻の場合は多面体でとらえるのが普通です。面と面との稜線、稜線が集中する頂点の位置関係で全体の形の構成が決定されていきます。演習ではほとんど触れなかった粗彫りの工程がとても重要になってきます。

内容については、いずれもう少し具象的なものも加えていきたいと思っていますが、形が複雑なだけにモチーフは限られたものにならざるを得ません。大切なことは、個々の「作り方」をなぞっていくのではなく、作り手自身が常にモチーフとなる形の本質を読み取ろうとする事ではないでしょうか。

大きな作品にチャレンジするときは、必要な道具を再チェックして、無理のない制作環境を整えましょう。
また、材料を準備する際には本体彫刻部分+台座部分で全体の大きさを考えることをお忘れなく。