情報化社会と図書館の役割
森下 松寿
生涯学習時代における情報化社会の到来は、マルチメディア機能の急速な発展によって現実のものになった。
この情報化社会は従来の図書貸出を専らとする日本の図書館のイメージが、図書館本来の機能であるレファレンス・サー
ビス(参考業務)、レフェラル・サービス(情報ネットワークによる生活情報の提供業務)を提供できる施設として大きく変貌させようとしている。
この稿では「情報化社会と図書館の役割」について述べてみたい。
「情報とは?」誰もが知って理解している言葉だが国語辞典【註1】では「ことがらの内容・事情の報告。事件などのようすの知らせ。また、判断を下したり、行動を起こしたりするために必要な種々の媒体による知識」と規定している。
また同辞典では「情報化社会」について「情報の収集や処理技術などの発達に伴い、情報の商品としての価値が高まり、政治・経済を中心に大きな力を及ぼすようになってきた現代社会」と規定している。
つまり、情報とは「判断を下したり行動を起こすために必要な知識」、情報化社会とは「情報の商品価値の高まりにより政治・経済・社会を動かす現代社会」ということである。
しかし、近年、コンピュータの出現により情報処理能力が大きく高まり、リアルタイムで情報分析がなされ、即、社会生活に影響を及ぼすことである。
「情報とお金と人間は寂しがり屋だ」【註2】と言う言葉ある。その意味は、このいずれもが有る人のところには向こうからどんどん寄ってくるが、無い人のところからはどんどん逃げて行くという性質があると言うことである。
情報の収集は「問題意識なしに情報は集まらない」という原則をふまえ、情報感度を磨く必要がある。その情報感度とは一種の情報に対してのカンことであり、問題意識の上にカンが働き、結果として「望ましい成果品」ができあがるのである。その基本プロセスは次の通りである。
この@〜Eのプロセスを踏まえて情報を収集し、分析・処理(情報処理)されたものが「望ましい成果品」と言うことになる。一般的には情報処理と言えばコンピュータ用語に思えるが人間生活における基本的な営みの用語であり、問題意識が結果として情報感度を敏感にすることである。そのことは、情報感度が敏感になれば、情報に対し目のつけどころが目的へと合理的に働くようになると同時に、向こうから必要な情報が飛び込んでくるような仕掛けが出来上がるのである。
現代社会は、分析・処理能力によって社会生活に大きな影響を受ける社会であることを認識すべきである。それは、インターネット等の通信手段の発達に伴い地球的な情報ネットワークが容易になり、さらに情報処理の高速化が進むことにより、個人の情報処理能力によって情報の独占化が計られることが考えられる。
独占化とは市民にとっては「持つものと持たざるもの」の不平等が生じることであり、経済活動、社会生活上の利益、不利益を被ることになる。このマルチメディアの発達した社会におけるユニバーサル・アクセス(全ての人々の平等な参加)を保障する「社会機関【註3】としての図書館」の機能充実が求められている時代である。
社会機関としての図書館(社会制度としての図書館)の原則は次の4点に要約される。
この原則は図書館が人類発展と平等な民主主義社会にとって必要不可欠な施設であることを証明している。
1972(昭和47)年IFLA(国際図書館協会連盟)の大会に提出された「ユネスコ公共図書館宣言」は、図書館の役割について次のように述べている。
「公共図書館は、人類の学術的、文化的業績を正しく認識するために、生涯を通じてあ
まねく教育を受けることが民主主義の基本であるということを実証するものである。
公共図書館は、人間の思想や知識の記録、創造力の成果などが、すべての人々に自
由に利用されるための主要な手段である。」
とされている。欧米では「社会機関としての図書館」を市民が獲得するまでに数百年の歴史を有しているが、日本では明治維新時の欧米近代制度導入時に図書館制度も設けられたが、市民の要求ではなかったので国家非常時(西南戦争等)には図書館予算の削減・国家機関への情報提供などが行われた。それは、社会機関としての図書館を構築するための歴史的過程を十分に追体験していない弊害であったことは明白である。
また、図書館に対する未発達なイメージは日本人に「本は自分で買って読むもの」・「日本には書店が多いから」・「だれが使ったかわからないような本は不衛生だから」・「自分の本でなければ学習できないから」と言った非科学的な見解を持たせるに至った。そのことにより図書館は成人向けペーパーブックス(成人向け軽い読み物=小説)の貸出を行うところであるとの偏見を持たせ、何時の間にか「図書館は本を貸出だけの機関」として限定され、社会機関としての図書館の役割は忘れ去れつつあった。
しかし、現代のマルチメディア社会は「図書館の社会機関としての役割」が見直され、図書館の本来の業務であるレファレンス・サービス、レフェラル・サービスの機能充実が求められるようになった。さらにインターネットの発達により情報格差を是正するためのユニバーサルアクセスを保障する機関としての機能を図書館が求められていることはアメリカの情報ハイウェー構想のどにより明らかである。
今、日本の図書館が目指そうとしていることは、成人向けペーパーブックスの提供を縮小し、それに代わって、地上のすべて事物を集約した《地域の百科事典》として、学生・研究者を対象としたレファレンス・ライブラリー、子ども達のための読書室、青少年のための図書室、成人教育の施設、高齢者の憩い場としての役割を担おうとしている。
また、図書館の先進国であるアメリカでは、地域住民の要求に応えるために、マルチメディアによる政治・経済活動、社会奉仕活動の情報・照会センター、仕事の機会と発展を目指した情報センター、貧困者と教育不足者のためのプログラムセンター、各施設に対する図書サービス・センター、身体障害者のための特別図書館として総合的な社会機関として位置づけ、生活の中心施設として機能している。
このように、図書館そのものが本来の「社会機関としての図書館」の機能を取り戻し、生活の中心施設として位置づけられ、情報化社会における市民の学習権、生活権を保障する機関に成長しようとしている。
「情報化社会と図書館の役割」について述べてきましたが、日本の図書館の状況は「生活の中心としての図書館」として物理的な要因により機能していないように思える。
今、必要なことは図書館を道路・鉄道等の社会資本(インフラ)と同じように位置づけ、整備することである。建物を整備したから「それでよし」でなく、運営そのものを重点事項としてゆく必要がある。
時代の様相は刻々と変わり、どんな優秀な人間でも現代の情報氾濫には処理能力を超え、対応に苦慮している。その中で「どう分析・処理・統合」を計るかにより情報格差が生じることになる。その情報格差を是正すべく、すべての市民にユニバーサル・アクセスを保障する機関として図書館が果たす役割は明確である。
図書館を如何に成長させ、生活の中心に位置づけ、すべての市民が情報格差の是正を計れるようになるには、さらに知識の平等化について論じあう必要がある。
以上、思いつくままに記述したが諸先覚の指導をお願いし「おわり」とする。
註1 松村明、山口秋穂、和田利政編著「国語辞典 第8版」1992年 旺文社刊
註2 小川明著「情報の達人、読書の達人」1994年 PHP研究所刊
註3 図書館は場所を確保することによって、そこに人類の経験・思想を蓄積するだけでな
く、それらが必要に応じて確実に取り出されることを幾世代にも亘って保障する社会機
関である。それは、人類の存続と発展に不可欠な社会機関であり、過去の知的遺産を
継承、淘汰して、その活用のための便宜を図り、更に大きな知的遺産とすることによって
次の世代に引き渡す役割を担っているのである。(服部金太郎 他編著「図書館活動」
1984年 樹村房刊)
*本文は「あしかび 19号」平成8年3月30日 鹿島町読書団体連合会刊に掲載されたものを一部加筆訂正したものである。