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パンドラの毒

塩素,健康,そして新しい環境戦略

Joe Thornton著

2000年,MIT Press出版,第2版,ISBN 0-262-20124

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著者について

健康問題と有機塩素化合物との関係についての"パンドラの毒"と言う本は、グリーンピースの反塩素/塩ビキャンペーンの元担当者である、Joe Thorntonの著作である。Thorntonは形式上、グリーンピースのキャンペーンを既に行っていないが、2001年には(時折?)Greenpeace Exeter支部(英国)で働いているようである。この様な背景は、もしThorntonが文献に記載された全ての知識と、彼が証明したいと望んでいるものを証明するため現実的な数値を使ったなら、この有名なMIT Pressから出版された彼の著作には、何の影響も与えなかったであろう。しかし残念ながらThorntonは、彼がキャンペーン担当者であった時と同一の戦術を使っており、かれが証明したいと望んでいる意見を証明している、あるいは示唆している文献だけを引用し、それと反対の意見を証明している文献を(例え政府出版物であろうと、国連環境計画の出版物であろうと)全て無視している。


反  論

次に示すのは、有機塩素化合物をひとつの「部類」として扱う基本的想定が行われている、最初の2章に関する、これだけでも長くなってしまった反論である。今後何カ月かでThorntonの著作に更に欠陥が見付かった場合、その時の時間のかかる活動状況によって、この反論は更に真実を付け加え拡大されるであろう。この様な反論は到底完全なものにはならないであろう。何故なら、完全な反論はThorntonの著作(600頁)と、同じ位の紙数を費やす事になるからである。私にはまだ専念しなければならない仕事があり、完全な反論は重すぎる仕事になってしまう。
更にまた第8章では、Thorntonは私が働いている工場について、信じられないような嘘を主張しており、それだけでも彼がグリーンピース時代の主張を、全く変えていない事を証明している。

このページの構成:

この著作の章毎のコメント:


コメントの要約:


"神は91の元素を創りたまい、ヒトは1,000以上の人工元素を創り出し、そして悪魔は悪魔の元素;塩素を創った" [28]. 。これが、グリーンピースの反塩素キャンペーンの信条であり、まだグリーンピースのため働いている、Thorntonの著作の基本理念である。MIT Pressから出版された作品の著者としてThorntonが使っている方法と、グリーンピースのキャンペーン担当者として塩素/塩ビについて幾つかパンフレットを共著した時Thorntonが使った方法には、全く差がない。ただ今度の著作の表現には僅かながら差があり、平均的な読者では、どこでこの著者が真実をいささか(?)節約しているのか、難しい様になっている。 けれども、Greenpeace e.V.とEngelbeenが争った事件で、ドイツ・ハンブルグの法廷の判決の言葉を借りれば:
「読者は原文の実際の文脈から、グリーンピースが誇張した事実を伝えている事、あるいは事実について正しい情報を伝えているとしても、全ての詳細を伝えていない事を理解しており、従ってそのメッセージを受け取った人の心に、少なくとも間違った印象を与える可能性がある」
これこそThorntonが、今度の著作で再三再四行っている事である。
有機化合物への塩素導入は一般的にその分子の毒性を大きくするという、この著作の基本的想定は真実である。しかし、有機化合物への酸素、硫黄、窒素(ニトロ基)、リン(リン酸基)の導入が、その分子の毒性を大きくするのも真実であり、著作にはこれが省略されている。吸入、摂取、あるいは皮膚から浸透する可能性のある全ての有機塩素化合物は、一定の用量になると、毒性、発ガン性、変異原性、内分泌攪乱性などを示す。しかし、全ての有機化合物は、例えその化合物が炭素と水素だけを含むものでも(特に芳香族の場合は)、あるいは酸素、硫黄、窒素などを含むものでも、一定の用量に達するとこれと同じ性質を示すのである。この事実もまた、この著作には省略されている。塩素を導入すると分子の脂溶性を増加させるが、しかしメチル基(炭素に水素が3個付いた基)をその分子に導入しても、同じように脂溶性が増加する。確かに一部の有機塩素化合物はPOP's(残留性有機汚染物質)であり、これは難分解性 生体内蓄積性 有毒化学物質である事を意味している。10,000種以上の合成有機塩素化合物と2,000種に渡る天然有機塩素化合物のうち、数百種がヒトの血液中に検出されている。今日の分析技術により、殆どのその他の有機塩素化合物は、検出される程の残留性が無いか、あるいは生体内蓄積性が無いか、あるいは排出量が極めて少ないため検出されないのであろうと、想定する事が可能である。しかしこの想定は、これら有機塩素化合物の環境への関与を、いささか疑問のあるものにしている。何故ならこれと同じ事が、PAHs(多環芳香族炭化水素)やニトロ化PAHsの様な、数百種の非塩素系有機化合物にも言えるからである。これら化合物の生体内蓄積性は、主として食物連鎖の末端で起こっており、その影響はダイオキシンの様な有機塩素化合物よりも遥かに大きいのである。その理由は、これら非塩素系有機化合物が有機塩素化合物よりも、桁数が恐ろしく違う程排出量が多く、ニトロ化PAHsはガン誘導物質であるからである。ダイオキシンは高濃度で発ガンプロモーターであるが、低濃度ではガン抑制物質である。
地球上の全ての生物に対する、酸素、硫黄、窒素、リン等の危険性について、この著作と同じ様な本を書くことが可能であろう。しかしこれらの元素を有機化合物に導入した結果について、あまり多く判っていないという単純な理由から、同じ様な本を書くのは、塩素よりずっと難しいであろう。しかし判っている事だけでも、有機塩素化合物より嫌疑を低くするには不十分である。それどころか、毒性でも発ガン性でも、変異原性でも、天然化学物質は合成化学物質に優るとも劣らないのである。
従って、もし悪魔が塩素を創ったと信じているなら、この本はあなた向きである。この説に批判的なら、この本を買ってはならない。なぜなら同じ"情報"を無料でグリーンピースから貰えるからである。


一般的意見:


有機塩素化合物の毒性に関するThorntonの著作の多くは、Dietrich Henschlerの研究 [65]に基づくものである。Henscherは、比較的毒性が低い脂肪族炭化水素(直鎖状、あるいは側鎖をもつ直鎖状炭化水素)と、毒性が高い芳香族炭化水素(炭素環を持つ炭化水素)への塩素導入について検討しただけである。Henscherは、炭化水素への他の元素の導入について、同様の検討を行っていないが、この著者は暗に、他の求電子性元素のアルカン類への導入は、化合物をより活性化(=有毒化)すると述べている:
「塩素の求電子効果は、他の求電子元素(例えば、F、O、N、P)と全く同様に、塩素が結合した炭素原子の求電子性を増大させる。」
またThorntonは、有機塩素化合物の異なるグループであっても、究極的には変異原性(ガン誘発性)を示すという、これと別の論理を展開している。しかしこれは脂肪族の有機塩素化合物に言える事であり、クロルベンゼン類(これはベンゼンと違って、発ガン物質ではない)には当てはまらないし、また(除草剤2,4-Dの部分分解物である、2.4-ジクロロフェノールの様な)低塩素化フェノール類にも、そしてまたDDT、PCBs、ダイオキシン/フランの様な、数多くの芳香族塩素化合物にも当てはまらない [65].。
多くの芳香族化合物は、極めて摂取量が多い場合にのみ、発ガン性を示すに過ぎない。この場合は、特定の臓器、あるいは複数の臓器に、重度の損傷を与える。この理由は、これら芳香族塩素化合物が真正の発ガン性物質であるからではなく、損傷の結果として多くの新しい組織を(損傷を受けた細胞を成長させる高いリスクを伴って)修復するメカニズムが働くからである。このような場合には、ガンが発生しない、あるいはビタミンAやダイオキシン(TCDD)の様に、化学物質がガンを阻害する様な投与量が存在する [13].。
 げっ歯動物で、高投与量で試験された事がある全ての化学物質のうち、約半数が(天然化学物質であろうとなかろうと、塩素化合物であろうとなかろうと)発ガン性物質である [13]. 。もちろんガンが発生する投与量には、大きな差がある。しかしダイオキシンやPAHsの様な、主として人為的な化学物質は、細胞の特定受容体に結合し、ある投与量を越すとガンを誘導するが、これは天然化学物質の場合でも全く同じである。一皿のブロッコリーは、その主要な毒性物質であるインドール・カルビノールの結合能力と、インドール・カルビノールの1日の滞留時間を計算に入れ、それをTCDDの長い年月の滞留時間と比較した場合、EPAによる基準一日摂取量のTCDDよりも、1,500倍も毒性が高い [13].。しかし、家庭で普通に見られるカビが作る、アフラトキシンの様な天然毒性物質の一部は、同じ摂取量でTCDDより10倍も高い毒性を示す。

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詳細な意見

序  論:


原著 3頁:
「電解工業では電気エネルギーにより、食塩の安定な塩素イオンを、比重が重い、激しい反応性がある、緑色を帯びた、天然には存在しない塩素ガス分子に変える。」
これは、明らかに間違っている。単純な自然現象により海から海上の大気中に移動する食塩量は、年間60億トンになると推定されている。この量のうち約1〜8億トンが、海面のオゾン、窒素酸化物、ヨウ素および臭素化合物により酸化され、塩素単体に変換されていると考えられている [66].。この量を、塩素工業が生産している4千万トン(排出量ではない!)と比較して頂きたい。この反応性の高い塩素は、下層大気中での有機化合物の酸化に役立っていると考えられるが、塩素の一部は有機塩素化合物になる。またこの塩素は、海辺に美しい緑色の銅葺き屋根が見られる原因のひとつである。

原著 9頁:
「更にまた、汚染防止設備は、汚染物質をひとつの場所あるいは環境媒体から、他の場所あるいは環境媒体に、移動させているだけである。汚染防止設備は、地域的汚染を削減出来るかも知れないが、地球全体での汚染防止には、何の役にも立たない。」
汚染防止設備を汚染防止手段と一緒に使った場合、ダイオキシンの様な残留性汚染物質の環境への影響は、地域的に見ようと地球全体で見ようと、途方もなく大きな改善が可能である。焼却炉中のダイオキシン生成は、焼却炉の構造と操業条件に直接関わるものである(塩素含量とは関係しない! 塩素含有量とダイオキシン排出量を参照の事)。このふたつの制御により、ダイオキシンの生成量を1000分の1に削減することが可能である。汚染防止は、化学物質の噴射、集塵機、フィルター、そして排煙処理触媒あるいは吸着剤を使って行われる。触媒はダイオキシンを分解し、そして活性炭の様な吸着剤は、排煙からダイオキシンを除去する。この吸着剤は焼却処理される(ダイオキシンは99.99%除去される)。
更に多くのダイオキシンが、集塵機および/あるいはフィルターに固型廃棄物として捕らえられるが、これはその地区の廃棄物処理場に保管されるため(あるいはオランダでの様に、一部アスファルトと混合され、道路からの排出量は問題が無い0.6g I-TEQ/年であるため)、地球全体の汚染とは全く無関係である。ダイオキシンの焼却炉から大気中への排出は、食物連鎖に対するダイオキシン汚染源として、最も重要である。この様にダイオキシンを排煙から除去する全ての設備は、その地区および地球全体のダイオキシン量に、途方もなく大きな影響を与えている。

原著7--13頁:リスクに対する考え方のモデルと、環境に対する考え方のモデル
 Thorntonの環境に対する考え方のモデルは、主として"予防原則"に基づくものである。間違いを起こすにしても、安全サイドで起こす方が良いに違い無いが、それでも種々の製品および/あるいは種々のプロセスについて、現状を含めてどちらが安全なのか知るため、これらのリスクを検討することが必要である。非塩素系製品および/あるいはプロセスが本質的により安全であると想定することは、塩素系製品および/あるいはプロセスのリスクが、代替品のリスクよりも、より多く判明している為、予防原則に反するものである。また代替品について分かっている事は、安心を与えるには程遠いのである。
 更にオランダで全ての種類の有機塩素化合物の99%が、ヒトの健康と環境への影響について、生産されている全製品による…これまで判っている範囲の…影響の合計と比較された。問題のある塩素系製品は禁止、あるいは段階的禁止の途上にあるため、残っている有機塩素化合物の環境への影響は、平均よりも低いものである(そして塩ビは遥かに低い)( 塩素チェーン参照)。従ってこの残っている有機塩素化合物を、汚染が拡大するとして段階的に禁止する理由は、全く無いと言える。
 排出ゼロと汚染の無い生産は、掛け声としては立派だが、完全に達成する事は不可能である。何の汚染も無く、そして/あるいは有毒物質、発ガン物質、変異原物質を全く使用せず、あるいはそのライフサイクルの一部でこれら物質を全く排出しないような製品/製造工程は、この世の中に存在しない。例えば、ガラスとコンクリートには砂(硅肺の発症物質)を必要とし、鉄鋼は石炭(PAHs、SOX、ダイオキシン等を発生する)を使用しており、おが屑はそれ自身が発ガン性物質であり(また焼却時に、PAHsやダイオキシンを発生する)、全てのプラスチックは原油(PAHs、ベンゼン、ダイオキシン等を発生する)が必要であり、そして全ての化石およびバイオマスエネルギー源はPAHs、ダイオキシンを発生する。

原著 15頁:
「有機塩素化合物は、既知の内分泌攪乱物質の大部分を占める。」
これは明らかに嘘である。殆ど全ての天然の内分泌攪乱物質と、或る濃度でホルモン作用を阻害する事が判っている多くの合成化学物質は、塩素を含んでいない。塩素は、内分泌攪乱作用に必須ではない。内分泌攪乱作用に役立っているのは、フェノール基(あるいは代謝されてフェノール基を生じるベンゼン環)と側鎖であると思われる。この側鎖は、第2のフェニル/フェノール基であっても、中規模の鎖長のアルキル鎖であっても良い様である。ホルモン作用に影響を与える目的で使われたDES(訳注:ジエチルスチルベストール)を除けば、私たちの食品中に含まれる天然のホルモン攪乱化学物質は、量でも総合活性でも、人工の内分泌攪乱物質より、遥かに多くまた高いのである。特に大豆はその影響が(正の影響でも負の影響でも)悪名高いものである [67]。更に、内分泌攪乱物質の研究者は、精子数減少の仮説を基にして、どの特定の化学物質を明確に指摘する事に対しても、警告を発している。

原著 18頁:
「ドイツ政府の環境審議会が1991年に結論を出している様に「50年代と60年代の塩素化学工業の力強い成長は、20世紀の産業発展の決定的な誤りを代表するものであり、塩素化学による環境への被害とヒトの健康へのリスクについて、現在の知識がその時得られていたら、この発展は起こらなかったであろう」
これは特定の有機塩素化合物については正しいが、これと同じ審議会は、その勧告が幾つか実施された後、1998年に次の様に意見を変更している [68]:

「ドイツ環境審議会は、既にその'廃棄物管理に関する特別報告書'で検討した塩素化学工業の問題について、ここでまた検討するつもりは無い。しかしながら本審議会は、生産および廃棄技術のこれまでの進展の結果…これはドイツ環境審議会の勧告に一部起因する発展であるが…塩ビに関わる環境問題は、塩素化学工業からの撤退を正当化するための唯一の主張として、もはや使う事が出来ないという事実を、本審議会が認識している事を指摘したい。ドイツ環境審議会は、塩ビにより発生する健康および環境への被害が、その代替品であるPET、PP、等に比べて、その使用の禁止あるいは厳しい規制の実施を正当化出来る程重大ではないという意見である。しかしながらドイツ環境審議会は、環境的に難分解性である材料は、その特性の故に市場から排除されるべきかどうかと言う観点から、塩ビの使用について更に再評価するつもりである。本審議会は、予測されている様にスウェーデンが、欧州連合の環境政策をこの線に沿って修正するよう、公式に提案した時点で、この問題に取り組むつもりである。」

この後半の勧告はいささか奇妙である。何故なら、無毒な難分解性の製品、例えば、塩ビ、ガラス、煉瓦、コンクリートなどは、長寿命で環境維持可能であるのに、禁止されるべきと言うのであろうか?


第1章:問 題 点


原著 27頁:表1.1
四塩化炭素を除いて、この表に示された塩素だけを含むその他有機塩素化合物は、大気中で普通の寿命がある。表に示された化合物で最も寿命が長いものは、分子を光分解に対して安定化させる、フッ素を全て含んでいる。これも含めて「有機塩素化合物」と呼ぶのは不当である。更に、ダイオキシン(TCDD)がトリクロロフェノールから光合成されるとしても、TCDD自身が紫外線で数週間で完全に分解されるため、このTCDDの光合成はトンチンカンな記載である。そして大量に生産される有機塩素化合物(塩ビ用)は、日光で容易に分解する:VCM(数時間)、EDC(数週間)。この性質もこの表に記載が無い。またこの表にある有機塩素化合物の一部は、化学業界で生産される量よりも1桁から2桁多い量が自然発生(そして、放出!)している。メチルクロライド(クロロメタン):99%自然発生。ジクロロメタン:98%自然発生。クロロホルム:98%自然発生。四塩化炭素:95%自然発生 [40]。トリクロロエチレンとパークロロエチレン(ドライクリーニング用溶剤)ですら、自然発生源があり、大気中に存在するこれら化合物の約10%…それぞれ5%…が、自然発生した化合物である。
また既に述べている様に、単体の塩素は環境から有機物を浄化するのに役立っている。

原著 29頁:アトラジン
アトラジンは、米国で最も普及している除草剤のひとつである。地下水や地表水中に検出されたとしても不思議では無い。しかし、アトラジンの作用は、「塩素化」されているが、塩素でなく窒素に基づくものである。アトラジンはトリアジン系と呼ばれる除草剤の1種である。また、比較的遅い生分解性(土壌中で約100日、水中で数カ月から1年)は、そのトリアジン環によるものであり、塩素によるものではない。何故なら、アトラジンは、土壌細菌により極めて迅速にその単一の塩素原子を失い [69].ヒドロキシトリアジンになるからである。

トリクロロ酢酸(および他の有機塩素化合物)が、常に雨水中に存在すると、Thorntonは記述している。しかし彼は、化学業界を起源とする既知の有機塩素化合物が、自然発生する有機塩素化合物よりも2〜3桁少なく存在すると記載する事を忘れている。トリクロロ酢酸の様に化学業界起源が多い(数%以下)場合でも、化学業界起源よりも自然発生量が多いと言う良い例である [70]。18世紀初めに積もった南極の雪を分析する事により、この種の有機塩素化合物の世界的な分布に、自然発生源が重要な役割を果たしている事が実証されている。雨水中の残りの有機塩素化合物の大部分は、全部ではないが、殆どが自然発生した有機塩素化合物である。

原著 33頁:表1.2
この表は、現実の寿命を全く反映していない。純水中の半減期が記述されているが、純水は殆ど全ての有機化合物に対して…塩素化されていようといまいと…不活性な媒体である。この条件での純粋に化学的な脱塩素化(ヒドロキシル化)は、極めてゆっくりとした反応であり、分子の特定部位に結合した塩素の、化学的反応性(結合エネルギー)に依存するものである。現実の寿命は、細菌、カビ、植物、および動物の影響を受ける。そして有機塩素化合物を分解するのは、土壌中であろうと水中であろうと、また堆積物であろうと、細菌なのである。細菌は塩ビおよび農薬工場の排水中の有機塩素化合物を、1.2ジクロロエタンを含めて、たった3日間で98%分解する [71]。しかし1.2ジクロロエタンは、この著作の表1.2では、半減期が72年になっている。つまりここで言いたいのは、有機塩素化合物の分解速度は、石油精製工場での塩素を含まない有機化合物の数値と、同等と言う事である。

原著 33/34頁:塩素化リグニンと代謝産物:
塩素化リグニン、フェノール、グアヤコール、カテコール、そしてベラトロールは、現在殆ど放棄されている、製紙工程での単体塩素の使用で生成していた。しかしこれら工業による生成量よりも、カビによる樹木の自然分解による生成量の方が遥かに多いため、工業地帯を流れる河川よりも、遠方の森林地帯を流れる河川の方が、その濃度が高い [70].。そして、6,000年前の損なわれていない帯水層中に、数多くの有機塩素化合物が見付かっている。

原著 38頁:イルカ
「東部カナダのセント・ローレンス湾に生息するシロイルカは、五大湖から来るウナギを主として食べているが、ppmレベルのクロルベンゼン、PCBsおよび多数の有機塩素系農薬で汚染されている。」
しかし、これらイルカのの主な汚染物質は、塩素を含まないPAHである。:

「シロイルカに移行上皮ガンが、最初に発見されたのは、1985年に海岸に打ち上げられたイルカ死体の、検死解剖が行われた時である。排水をセントロ−レンス湾に排出している近くのアルミ精錬工場の従業員に、このタイプの膀胱ガン発生率の高い事が認められたのも、特に刺激的な発見であった。…川の 流域にあるアルミ精錬工場と他の産業が、河川を良く知られている強力な発ガン物質ベンツピレンで汚染して来た…。ある生物のDNAに付着している付加体の数は、ベンツピレン被曝の測定に有用であると考えられる。海岸に打ち上げられたセントローレンス湾のシロイルカの脳組織から得られたDNAには、印象的な程数多い付加体が認められた。」[72]


原著 40-43頁:私たちと子どもの身体の中で
この部分に記述されている内容はほぼ正しいが、これは健康とは全く関係が無い。何故なら、ヒトだけがどんどん長生きをするようになっているからである。現在生まれている子どもは、100年前に比べて2倍の平均余命がある。
そして難分解性有機塩素化合物の母乳中の濃度は、西側諸国全体で減少している [51]

Thorntonは、有機塩素汚染物質の数と、その他未知の汚染物質の数の比率について、190/700と言う推測をしている。この「その他」のうち、幾つかが有機塩素化合物で、また非塩素系有機化合物はいくつ見付かっているのだろうか?このふたつのうち幾つが、全くの天然物質なのだろうか?また一番重要なのは、これらはどの位毒性が高いのだろうか?
そしてヒトの白血球は、バクテリアやウィルスのような侵入者を殺すため、塩素(漂白剤)を生成する。この塩素生成で、どの位の有機塩素化合物が作り出されるのか、全く不明である。
そして200種の生体内蓄積性有機塩素化合物があると言っても、全部で10,000種の工業生産されている有機塩素化合物と、2,000種の天然有機塩素化合物の中では、生体内蓄積性があるのはその僅かな部分に過ぎない。その他の全ての有機塩素化合物は、揮発性が極めて高いか、生分解性が極めて速いか、水溶性が非常に良いか、あるいは極めて少量しか生産されないため、生体内に蓄積された後でも、現在の極めて繊細な分析方法でも検出出来ないと言うのであろうか?
そして、生体内蓄積性がある非塩素系有機化合物が、少なくとも同数あるのではないか?

原著 45頁:塩ビとダイオキシン
「米国塩素化学工業会(CCC)と米国塩ビ協会(VI)は、"環境中のダイオキシン量は、減少しており"、塩ビの規制は不要であると言っている。」
CCCもVIも、こんな事は言っていない。CCCとVIは、塩ビ生産が、環境中へのダイオキシンの微々たる発生源であると言っている。欧州諸国及び米国政府の調査でこれが証明されている。国連環境計画の 世界規模でのダイオキシン発生源明細書 [60].を見て頂きたい。そして、塩ビは焼却炉でのダイオキシン発生源ではない。そしてCCCとVIは、70年代以後、堆積物中のダイオキシン量が減少していると指摘(現在40年代と殆ど同じ濃度に低下)しており、一方でその期間に、塩ビの生産と使用は3倍に増加している。

原著 50-53頁:地域的汚染から地球全体の汚染へ
POPsの蓄積は、地域的なもの(例えば焼却炉近辺のダイオキシン)であろうと、地方的また地球全体のもの(食物連鎖による摂取)であろうと、同様に対処が必要であると言っている点でThrontonは正しい。しかしリスクに対する考え方のモデルでも、これを考慮すべきである。例えばFlanders地方では、全てのダイオキシン発生源からの排出総量が測定され集計されており、食物連鎖による摂取量と関連付けられている。ダイオキシン総排出量は、WHOの許容一日摂取量を上回らない様に、最大限削減されている。Thorntonがダイオキシンの排出ゼロを要求するのなら、それは間違いである。何故なら、これは大変な資金を投資して、全ての化石燃料(天然ガスを除く)の燃焼を中止し、全ての金属の生産を中止させる事になるが、誰の健康にも何のメリットを与えないからである。

原著 55頁:表1.3 難分解性有機汚染物質(POPs)
国連環境計画のPOPsリストに有機塩素化合物しか入ってないのは、政治問題からであり、毒性問題からではない。量でも毒性でも最も重要な種類のPOPsは、PAHsである。これらPAHsは、最初のPOPsリストには入っていない。
Flanders地方で放出されているPAHsは 年間284トンである [59]. 。この中に含まれるベンツピレン(BaP)濃度を1%と過小評価したとしても、PAHsの中で最も発ガン性の強いBaPが、年間に2.84トン排出されている事になる。この値をダイオキシンの年間総排出量274グラムTEQと比較して見て頂きたい。ダイオキシンとBaPの発ガン性比率は、ラットの一部の系統で20:1である。Ah受容体への結合能力(恐らくガン以外の種々の疾病とも関係すると見られる)の比率は、3〜5:1である。


第二章:第一級の毒物


原著 57頁:有機塩素化合物の影響
Thorntonが有機塩素化合物の健康への影響についてこの頁に書いていることは、有機化合物全般、そして酸素、窒素、硫黄、リンを含む有機化合物にも当てはまる。どの「部類」の化学物質にも、発ガン性、DNA損傷性、免疫抑制性、内分泌攪乱性、そして脳及び神経の機能障害に関わる化学物質が含まれている。
この脳及び神経の機能障害に関わる影響は、特に有機リン化合物で認められている。従って有機塩素化合物だけを指摘する事は、全く不当なものである。更にまたこれら化学物質の健康への影響については、その摂取量がその毒性を発現させているのである。

原著 60-61頁:表2.1
この表は、有名なIARC(国際ガン研究機関)が「ヒトに対して恐らく発ガン性がある物質」、及び「ヒトに対して発ガン性があるかも知れない物質」に分類した表 [*].から、有機塩素化合物だけを全て抜き出した表に過ぎない。HSDB(安全衛生データベース)を調べれば、有機塩素化合物の実験動物に示す発ガン性が、限定されたものである事は明らかである。

Thorntonが削除しているのは、極めて多くの非塩素系有機化合物が、「ヒトに対する発ガン性が確認されている物質」、「ヒトに対して恐らく発ガン性がある物質」、そして「ヒトに対して発ガン性のあるかも知れない物質」に分類されている事である。これはドイツ DfG(労働安全衛生局)により、図示されている。 [73]:
職場で使われている126種の、「ヒトに対する発ガン性が確認されている物質」あるいは「ヒトに対して恐らく発ガン性がある物質」の内、57種には窒素が含まれ(またその多くが極めて発ガン性が高く)、26種に塩素が含まれ、17種は金属あるいは無機化合物であり、15種に酸素が含まれ、6種は純粋な炭化水素であり、5種に硫黄が含まれ、そして残りの5種には塩素以外のハロゲンが含まれている。この様に有機塩素化合物は、職場で使われている発ガン物質の約21%を占めるが、一方で塩素化合物は、化学工程の約60%で使われている。それを考えれば、21%という値は極めて低い値である。

原著 63-65頁:Henschlerの研究 [65].
Henschlerは、有機化合物への塩素導入について、最初は直鎖炭化水素に、次いで芳香族炭化水素について研究を行った。Thorntonの著作には、塩素以外の求電子性元素(窒素、リン、酸素、硫黄、…)の導入について、他の誰が行った比較実験も引用されていない。
このHenschlerの報告が、有機塩素化合物の全ての「部類」が、他の如何なる「部類」の有機化合物毒性よりも毒性が高いとする、Thorntonの想定の根拠となっている。しかし彼は、窒素、硫黄、酸素及び/あるいはリンの導入も、単純な直鎖炭化水素及び多くの芳香族炭化水素の反応性(=毒性)を増加させると、記述する事を忘れている。この事は、Henschler自身の報告にも、次の様に記載されている:

「塩素の求電子効果は…他の求電子性元素(例えばフッ素,酸素,窒素,リン)と同様に…その元素が結合する炭素原子の求電子性を増加させる。」

もし単純な直鎖炭化水素及び芳香族炭化水素への、塩素以外の元素の導入に注目すれば次の様な結果を認める事が可能であろう:

酸素:
酸素のメタンへの導入は、その毒性を更に高くする:メタノールは、神経損傷を引き起こす極めて有毒な化学物質であり、低摂取量でも失明及び死亡例がある。
更に酸素を導入すると、極めて強い呼吸刺激性があり、「ヒトに対して発ガン性があるかも知れない物質」であるホルムアルデヒドになる。また更に酸素を増やすと一酸化炭素になり、これは有機化合物ではないが、有機物の不完全燃焼により生成する一酸化炭素により、年間100万人当たり30人が中毒死している。
更に酸素が増加すると強い皮膚刺激性のある蟻酸になる、メタノールを摂取すると失明するのは、メタノールが分解して蟻酸になるからである。
全ての種類のアルデヒドは、強い呼吸刺激性があり、「ヒトに対して発ガン性があるかも知れない物質」である。
 エタンに酸素を導入すると、まず最初にエタノール、つまり普通のアルコールになる。この単純な有機化合物は、この世に有る他のどの有機物よりも問題を引き起こしている。エタノールは強力な神経毒物であり、極めて低い摂取量でも神経反射時間を遅らせる。これは毎日発生する、多数の交通事故死の原因となっている。また更にアルコールは、他の全ての毒物を併せたよりも、ずっと多くの奇形児の原因となっている。そしてエタノールは、「ヒトに対する発ガン性が証明されている物質」である(公式ではないが)(訳注;IARCのリストには、アルコール性飲料がタバコと共に、「ヒトに対する発ガン性が証明されている物質」87種の中に入っています)。
全ての種類のアルコールは神経毒物であり、その一部は、「ヒトに対して発ガン性があるかも知れない物質」である。
酢酸や高級な脂肪酸(より鎖長が長い脂肪酸)は、基本食品(油脂の一部)であり、過剰に摂取した場合(特に飽和脂肪酸を過剰に摂取した場合)を除いて、何の問題も引き起こさない。
しかし、過酸化酢酸は「ヒトに対して恐らく発ガン性がある物質」である。
そして、もうひとつのエタン酸化物である、エチレンオキサイドは、「ヒトに対して恐らく発ガン性がある物質」である。
全てのアルカンオキサイドは、「ヒトに対して恐らく発ガン性がある物質」である。
 ベンゼンに酸素を導入するとフェノールになり、その毒性は高くなるが、発ガン性は無くなっている。フェノールやクレゾールが私たちの食品に多く含まれ、その摂取量が多いというのは本当である。これらフェノール類は肝臓で複合体となり、危害を与える前に尿に排出される。しかしベンゼンの発ガン性は、その酸化が部分的に肝臓で起こるだけであり、悪い場所でフェノールへの酸化が起こるためである。肝臓以外にベンゼンは、主として脊髄で酸化され、その酸化物が成長している細胞のDNAと反応し、最終的に白血病を引き起こすのである。
 多くの芳香族炭化水素の酸化による水溶性酸化物の生成でも、これと同じ問題が認められ、それと同時に残留性生体内(部分)蓄積性PAHsがエポキシ化合物に変換される究極的問題が発生する。このエポキシ化合物が直接DNAに損傷を与えるのである。この様にしてPAHsは「ヒトに対して恐らく発ガン性のある物質」になる。有機物の全ての熱分解物(木材、石炭、石油などのタール)に認められるPAHsは、「ヒトに対する発ガン性が証明されている物質」である。
ホルモン擬似作用を示す、殆ど全ての天然化学物質と多くの合成化学物質には、酸素が含まれている:ゲニスティン、ダイゼイン(大豆)、キサントフモール(ホップ)、ビスフェノールA、合成アルキルフェノール等がこの例である。

結 論: 有機化合物への酸素の導入は、一般にその毒性をより高く変え、また多くの場合に、発ガン物質、神経毒物、内分泌攪乱物質、奇形児原因物質の生成に繋がっている。

窒素誘導体:
直鎖炭化水素への窒素の導入は、その毒性を遥かに高いものに変える:
全てのモノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミンは、元の直鎖炭化水素よりも毒性が高い。
ジアルキルアミンは、容易に(胃の中でも)ニトロソアミンに変換されるが、これは極めて強力な「ヒトに対して恐らく発ガン性のある物質」である。
芳香族炭化水素へのアミン基の導入は、殆ど間違いなく「ヒトに対する発ガン性が証明されている物質」、「ヒトに対して恐らく発ガン性のある物質」、あるいは「ヒトに対して発ガン性があるかも知れない物質」の生成に繋がっている。
一方で元の芳香族炭化水素は、それ自身では(ベンゼンを除いて)発ガン性が無いか、発ガン性がより低い。すべての有機化合物へのニトロ基導入は殆ど間違いなく、「ヒトに対する発ガン性が証明されている物質」、「ヒトに対して恐らく発ガン性のある物質」、あるいは「ヒトに対して発ガン性があるかも知れない物質」の生成に繋がっている。これまで発見されている最も発ガン性の高い物質は、ニトロ化PAHsである。
ニトロソアミン基の導入は、全ての有機化合物を「ヒトに対して恐らく発ガン性のある物質」に変える。
イソシアネート基の導入は、全ての有機化合物を極めて毒性の高い物質に変え、また極めて強い呼吸刺激性物質に変える。そしてイソシアネート基を導入した芳香族炭化水素は「ヒトに対して恐らく発ガン性のある物質」である。

結  論: 有機化合物中への窒素の導入は、一般に毒性をより高く、あるいは極めて高く変え、そして多くの場合には、発ガン物質、神経毒物、そして極めて低い濃度で呼吸刺激性を示す物質の生成に繋がる。

二重結合の導入:
有機化合物への二重結合の導入は、間違いなく分子の活性を上げ、毒性を高く変える。体内でこれら二重結合は、通常エポキシ化され、DNAの損傷とガンの開始に繋がる。

塩素の導入と他の元素の導入についての一般的比較:
職場で規制されている発ガン物質 [73],の数を見た場合、その半数は窒素化合物であり、またその一部は…ニトロソアミン類の様に…極めて低い濃度でも発ガン性を示す。これら窒素化合物の数は…全ての化学プロセスの60%で使用されている…有機塩素化合物の2倍である。ダイオキシンを除いて、発ガン性を持つ有機塩素化合物は、他の元素の導入と比較して、穏和な発ガン性を示す。

一般的な結論: 有機塩素化合物よりも、窒素を含む有機化合物を、ひとつの「部類」として禁止する理由の方が、ずっと多い。


第8章:根  拠


原著 306頁:塩ビ
「塩ビのライフサイクル全体を見た場合、他の如何なる製品よりも、塩ビは極めて有害な副産物を多量に生成していると思われる。塩素は他の如何なる用途よりも多く塩ビに使われているため、この事実は全く驚くに当たらない。」
この主張は全く数字により立証されていない。何故ならThornton は、代替品のライフサイクルについて全く何も考慮せずに、塩ビだけについて指摘しているからである。塩ビ代替品の殆どは、エチレン、プロピレンそして/あるいはベンゼンを主として原料とする、他のプラスチックである。エチレン/プロピレン生産の主要工程はナフサのクラッキングであり、その収率は70%であり、主要副産物としてベンゼン及びその他の芳香族炭化水素、そしてタール分としてPAHが生成する。塩素、エチレン、酸素からのEDCへの変換率は、97%以上である。従って塩ビ(57%塩素、43%エチレン)の生産は、如何なるプラスチック代替品の生産よりも、有毒副産物が遥かに少ない。塩ビの廃棄処理は何の問題も起こしておらず、焼却処理も有毒廃棄物を増加させないであろう。焼却炉排煙の中和塩残渣は、重金属が除去されれば、毒性は全く無く、再使用あるいは塩水(海水)への投棄が可能である。この例として Reggio Emilia(Italy).を参照して頂きたい。

原著 306-312頁:塩ビの生産
グラファイト電極を使った電解工程で、ダイオキシンが発見された事がある。しかし最新のイオン交換膜電解工場では、ダイオキシンは全く発見されていない。
Thorntonが述べているEDC/VCMの大気中への放出は間違いないが、大気中でのVCMの半減期は数時間であり、また揮発性が非常に高い(常温で気体)ため、ヒトの健康や環境に影響が無い事を書き忘れている。EDCの大気中での半減期は数日である。平均的なVCM工場の大気中への総排出量は、その発ガン性で比較すると、1台の大型ディーゼルトラックで隣の家まで走った時に出る、すすによる発ガン性と同等である。
そしてThorntonがその数値を計算の根拠としている、Norsk Hydro社とEVC社の排出量は、世界中にある全てのVCM工場と同様に、年々どんどん改善されている [74], 。

工場敷地内で汚染を見付ける事は(そして時には工場外でも)、VCM工場では珍しい事ではない。30年前には、バルブが…あるいはタンクですら…漏れていても誰も気にしなかった。これはガソリンスタンドの地下で、よくベンゼンが見付かるのと同じである。しかし今日では、この対策としてガソリンスタンドの下も、EDC/VCM工場のタンクの下も、液体が漏れない構造になっている。

確かにダイオキシン(及びPCBs)は、エチレンと塩酸からEDCを製造する、オキシ塩素化工程で生成する。 工程と触媒の種類で違うが、ダイオキシン生成量は、EDC100,000トン当たり1〜40g I-TEQである。このダイオキシンの数値は、環境とは全く関係の無いものである。何故ならダイオキシンは、高留分処理(有機物に対して)と廃水処理(使用済み触媒に対して)により、対処されているからである。高留分は殆どの場合、工場内で焼却処理されており、廃水処理で(ダイオキシンが付着した)触媒が浄化されている。従って環境にとって重要なのは、処理の後焼却炉から、大気中及び水へどの位排出されたかだけである。米国全体で、11g I-TEQのダイオキシン(及びPCBs)が大気中に、0.6g I-TEQが水中に、0.7g I-TEQが土壌に、3.1g I-TEQが製品中に、排出あるいは移行している。これらは最大値である。これを言い換えれば、米国で生成した全てのダイオキシンの内、塩ビ工場から大気、水、土壌、及び製品に排出あるいは移行したのは、0.06%以下である。 ダイオキシンの発生源.を見て頂きたい。

Thorntonが引用しているEversによるオランダの研究は、EDC生産でのダイオキシン生成 [75] をEDC1.5グラム(!)スケールで実験し、これを何と100,000トン(!)のEDC生産にスケールアップしている。さらに検出されるダイオキシンの80%は、触媒上に付着している(つまり殆ど工場内に留まっている)。この様にEversの実験は、実際に稼働している工場とは程遠いものである。オランダのRovin社(現在は信越)のEDC/VCM工場は、アムステルダム大学の研究者に依頼して、その工場で生成されるダイオキシンと、排出されるダイオキシンの量を調べた。
実験結果は次の通りであった:年間500,000トンの生産で、約4gのダイオキシンが生成していた。この数字だけでも、Thorntonが記述している量の500分の1である。このダイオキシンの内、汚水の活性汚泥処理と、生産廃棄物と排ガスの焼却処理の後では、年間約40mgのダイオキシンが大気中に、そして年間約10mgのダイオキシンが水中に排出されていた。この量は、Thorntonが述べていた量の10,000分の1であり、生態学的災害どころか、問題にすらならない量である。Thorntonは、グリーンピースで報告を書いた時と全く同様に、再三再四ダイオキシンの生成と排出について読者を混乱させている。

その他の幾つかの間違い:
「旧式のEDC/VCM技術だけがダイオキシンを生成するという主張を覆すため、1994年に政府の科学者は、ドイツの最新鋭のEDC/VCM工場の汚泥から、高濃度のダイオキシンを検出した。」

最新鋭のEDC/VCM工場はダイオキシンを生成しないと主張した人は、業界に誰もいない。業界の誰もが言っているのは、最新鋭のEDC/VCM工場は際立った量のダイオキシンを排出しない事である。
Thorton自身も、以前の報告の中で、このドイツの工場のデータを示している [1]:
金属塩汚泥:409,270ng/kg TEQ
固型の金属塩汚泥:413,790ng/kg
廃水処理汚泥:7,199ng/kg
排水口近くの堆積物:1.7〜3.9ng/kg
排水口近くのイガイ:0.71〜4.44ng/kg
全ての汚泥は、適切に処理あるいは焼却されており、環境汚染物質ではない。またこれら数値は、この工場が環境に影響を与えていない事を示しているだけである。何故なら、排水口付近の沈殿物やイガイには、低濃度のダイオキシンが認められるだけだからである。更にまた驚くべきなのは、イガイが堆積物からダイオキシンを濃縮していない事である。これはこのEDC/VCM工場による堆積物の残留汚染が、全て極めて部分的である事を証明している。

「焼却炉の能力を、有害廃棄物を完全に破壊すると、大幅に過大評価している。実際に焼却炉は、EDC廃棄物中のダイオキシンの様に、低濃度で存在する化学物質を破壊するためには、極めて非効率的である。」
Thorntonがこの本を書く何年も前に、数多くのVCM工場での真実の数値が既に公表されているため、著作のこの部分は真実の完全な歪曲である。液体のEDC/VCM廃棄物(タール状)を破壊するため使われる焼却炉は、特殊仕様であり、如何なる固型廃棄物焼却炉よりも高温の、最低1,200℃(最高1,500℃)に到達させる事が可能である。滞留時間2秒で、全ての(塩素系)有機化合物が破壊される。その熱の一部をボイラーの着火に使った後、排煙は稀塩酸で急冷される。これはダイオキシンのデノボ合成を防止するため、1秒の何分の1かで、200℃以下に急冷する事を意味する。この種の焼却炉では、ダイオキシン類似PCBsは(PCBsの焼却の場合でも)全く検出されず、ダイオキシンは99.99%破壊される。この残りの年間数mgのダイオキシンも、現在活性炭で吸着されており、ダイオキシンの排出量を検出限界以下に引き下げている。

「EDC/VCMの合成の副生成物が、有害廃棄物中に入るわけではない。その一部は、直接環境に逃れ出る。ダイオキシンは、数多くのEDC/VCM工場の排水及び排気から検出されてきた。」
Thorntonが怠っているのは、真実の値を示す事である。真実の値は多くの西側諸国のダイオキシン排出量公式報告書に示されている。EDC/VCM工場の大気へのダイオキシン排出量は、米国で総排出量の0.4%以下であり、欧州では0.1%以下である。水中へのダイオキシン排出量は無視し得る値である。 ダイオキシンの発生源.を参照して頂きたい。

「イタリアのベニス干潟で堆積物中に認められた大変なダイオキシン汚染は、EDC/VCM工場と関連性がある。」
しかし、グリーンピースのこの話題についてのレポート [76] は、次の様に結論している!:

「従ってこの証拠は、以下の結論を裏付けている:
干潟のあちこちが激しく汚染されている:
少なくとも一部の汚染は、EDC/VCM生産の結果と認める事が出来る:
この汚染は、干潟のあちこちで検出する事が出来る:
そして、通常よりも多い量のダイオキシンに被曝しているヒトは、その健康に影響を受けるリスクが増加している。」

この様にグリーンピースは、Thorntonより少し慎重である。その他の記述では、EDC/VCM工場から出た汚染物質があるのは、本当である可能性がある。しかし、それよりもっと重要なのは、現在どれだけ汚染物質が出ているかである。そしてまた堆積物に認められるのは、有機塩素化合物だけでなく、PAHsも、重金属も、また放射性物質も認められるのである。

「オランダでは、ライン川の堆積物サンプルのダイオキシン濃度は、EDC/VCM工場の下流から劇的にはね上がる。実際その濃度は非常に高いため、その工場からライン川下流の堆積物のダイオキシンは、河口に至るまで殆ど、そしてまた北海とワッデン海の堆積物のダイオキシンも殆ど全部、この工場に起因するものと思われる。」

これは、大変乱暴な意見である。 Greenpeace Internationalの報告書"塩ビ工場=ダイオキシン工場" [77],の中で、私が働いているオランダのロッテルダムのEDC/VCM工場だけが、ライン川の水源から665kmの地点に認められたダイオキシン汚染の発生源であると、グリーンピースは"証明"している。この地点はドイツ・ケルンの南10kmにあり、一方名指しされた…私が働いている…工場は、水源から1015kmのオランダのロッテルダムにあるため、こんな事は有り得ない。(ダイオキシンが上流に泳いで行ったのか!)この汚染は何度か調査された後、汚染は恐らく過去のもので、塩ビとは全く関係が無い、10年以上前に閉鎖された塩化フェノール工場からのものと判定されている。このとんでもない場所の取り違えについて、グリーンピースは(何も謝罪も行わず)その後の報告書で訂正している。
Thorntonは、誤解しているのを知っている筈なのに、再びこの欺瞞的主張を繰り返している。
Thorntonが…この間違いを除いて…その論文を主張の根拠としているEversは、現在オランダの政府機関で働いている。Eversは、EDC/VCM工場によるライン川とその河口の汚染について、幾つかの報告を出した。しかしこれらは間違いであると証明されている。堆積物のダイオキシンの"指紋的特徴"が合致しないだけでなく、ロッテルダムの工場から出る排水は…ライン川ではなく…ロッテルダム港の側壁に出ており、全てのダイオキシンはその排水口の下に堆積している(そこで昔の汚染を検出する事が可能である)。
更にまた、排出されるダイオキシン(及び他の汚染物質)の量は、1989年以後公開されている。活性汚泥排水処理設備が設置された1986年以後、排水へのダイオキシンの排出は、0.01g I-TEQ/年以下になっていた。現在は、ダイオキシンが付着している微粒子を除去するため、限外濾過が行われており、ダイオキシン排出量は検出限界以下になっている。
ライン川は、ドイツとオランダの国境線で測定すると年間66g I-TEQのダイオキシンを運んで流れている。北海に流れ出る量は146gである。この数値は、Eversの論文に報告されている。オランダの全産業から水に排出されるダイオキシンの総量は、1.3gである(この内、0.01g I-TEQが、私が働いているVCM工場からであった)。この数値は、オランダ政府のためTNOが作成した、ダイオキシン排出量明細書に掲載されている [3]。私は、グリーンピースの有毒物質キャンペーン担当者Wytze van der Naaldと、私が働いている工場のダイオキシン量について、猛烈な議論をした事があるためGreenpeace InternationalはこのTNOの明細書を良く知っている筈である。またこの明細書は、ベニス干潟に関するそのレポート[76]で、グリーンピースに広範に利用されている。このTNOの明細書は、1993年に発表されており、Thorntonがグリーンピースのため報告 [1] を書いたのが1994年であるから、Thorntonは当然この明細書を知っていたはずである。グリーンピース内部の意思の疎通が良くないのか(連絡は形式的なものなのであろう!)、あるいはThorntonがこの数値を嫌って、意識的にその存在を無視したのであろう。
更に、UNEPのダイオキシン排出量明細書 [60]で、数カ国からの多くの数値が同じ結論を伝えている、即ち「塩ビ業界は、環境へのダイオキシンの排出源として無視出来る」事である。Thorntonはこれも知っている筈である。この事自身が、Thorntonの著作の信用を失墜させるものである。何故なら彼は、グリーンピースの有害物質のキャンペーン担当者だった時と同じ態度でこの著作を書いており、塩素用途の賛否両論をより良く理解するため研究を行っている科学者として書いていないからである。



脚 注:
[*] 分類は以下の通り:
「ヒトに対する発ガン性が確認されている物質」: 動物実験及びヒトの疫学的研究から、発ガン性が充分確認されている物質
「ヒトに対して恐らく発ガン性がある物質」: 発ガン性が動物実験で充分確認されているが、ヒトの免疫的研究からの根拠が不充分/不適切な物質
「ヒトに対して発ガン性があるかも知れない物質」: 動物実験あるいは理論的作用機序に基づく、発ガン性の不充分な根拠があるが、ヒトの免疫的研究から何の根拠も無い物質

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結  論:

Thorntonは、彼の偏見に満ちた意見を支持している論文を、引用しているだけである。これがいつものグリーンピースの戦略であり、政治的戦略であって、科学とは何の関係も無い。この著作にも明らかにこの戦略が使われており、関連する情報を…私たちの意見では故意に…削除している。唯一の違いは、この著作が高名なMITから出版されている事であり、この本に信憑性らしき雰囲気を与えているが、とてもその価値が認められない駄作である。
削除された例が更に多く発見され次第、このページを更新するつもりである。

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